本屋の女王様

 ベッドの上で拘束されていた。
 体中を革のベルトでしめられている。動けない。手や足や胴、首まで強固な束縛用具がはまっている。
 部屋は高級感であふれていた。よくわからない彫刻がされた照明、誰が書いたかわからない絵画、白く取っ手の丸い棚。王女様が住んでいそうな部屋だった。


 ――俺、大学の学生寮で寝ていたよな?


 瞬間移動の超能力でも手に入れたのだろうか。
 どこだここは?
 暴れてみるが、ベッドのふかふか感がすごいという感想しか浮かばない。


「起きたようね?」


 ひょこっと顔が出てきたので、ビクッと体が震えた。女の子だ。年は十二歳ぐらいか。
 高級感に似合う服装だった。頭の飾りは羽根飾り。スカートは段フリル。胸は成長段階だが、顔は大人っぽく釣り目だった。髪は金髪で、碧眼。


 ――外国の人?


 なかなか言葉が口から出てこなかった。


「ボビー、マイク、部屋に入って拘束具を外してあげて」


 少女が手をたたくと、黒いサングラスとスーツを着た屈強な黒人と白人が、無口なまま俺を解放する。
 誘拐したのはこいつらか?
 けんかで勝てそうにないので、ダンゴムシのように小さく丸まっていた。
 男たちが部屋から出て行った。残ったのは俺と少女だけ。
 少女は子猫の装飾を施した椅子に座ると、


「おはよう。《オーバーロード》さん」
「えっ?」


 思わず後ろを向いた。


「あんたのことよ。ペンネームなんでしょ?」


 丸テーブルに置かれたノートパソコンに、小説投稿サイトが映っていた。よく利用しているサイトだ。背中の汗が服にくっつく。


「この《ぼくとヌコ》っていう、主人公と人間化した猫、ヌコとのラブコメのようで、ラブコメじゃない、スペースオペラ書いたでしょ? ビームサーベルで狂気に堕ちたヌコと戦うっていう」
「なんで知ってるんだ!」


 たまらず声がうわずった。
 恥ずかしい!
 書籍化しても、作者の顔は絶対出さないと決めていた。


「ファンだもん。ほら。いつも作品の感想を書き込んでいる、キャスリンて私」


 作品の感想欄の部分に、指をつける少女。
 ええっ!
 キャスリンなら知っている。やたらと精神をえぐってくる、最悪なファンだ。相手にするのが嫌で、名前を見かけたら無視していた。


「最近私の言うことを聞かなくなったわね? ちゃんと読んでるの?」


 読んでねぇよ!


「まあいいわ。今日はなんの日か知ってる?」


 もちろんだ。キャスリンに言われるまでもない。


「書籍化決定作品発表の日だろ? 昨日緊張して眠れなかったんだ。俺は最終選考に残ったからな」


 前髪を手でかき上げて自慢。
 利用している小説投稿サイトでは、大手出版社が定期的にコンテストを開いていた。優勝する方法は簡単。読者票が多ければいいのだ。
 俺の作品の読者票は、二位を突き放して百倍の投票を獲得していた。


「当然よね」


 少女はうんうんとうなずき、


「投票を全世界から買ってやったわ。感謝なさい」
「……はっ?」
「読者投票は、世界中の人にお金を渡して、投票してもらったの。実質、あなたの作品は私を含めて七人しか投票してないわ」
「はっ、はいぃっ!」


 驚きすぎて、鼻から液体が噴射した。


「調子に乗って、掲示板サイトに、『オーバーロードは一万人に一人の才能』とか、『SF界の巨匠』とか、『二位に足りなかったもの。それは読者に対する真心じゃないかな?』とか書いちゃって」


 パソコンの画面が変わって、黒歴史がどんどん表示される。匿名で書いたのに、全部バレてる。
「殺せ! もう俺を殺してくれ!」ベッドの上に転がって、もだえまくった。
 顔が熱すぎる!


「あっ、結果が出たようね……はあっ?」


 少女はパソコンの端を両手でつかむと、


「落選ですって? どうして! 読者投票はあんなに取ったのよ!」


 不正がバレたのだ。もしくは実力がなかったか。後者の可能性がもっとも高い。


「そりゃそうだよ……あんな作品残るわけが……」
「おかしいわ! サイトの運営に電話して、法的手段で訴えてやるわ!」
「お願いだから、それはやめて!」


 オネエ言葉で泣きつく俺。


「じゃあ自費出版よ! 書店の一番見えやすい棚に、あなたの本を置いてもらうのよ!」
「恥の上塗りだからやめてくれぇ! 俺小説うまくなるから! がんばるから! 実力で作家になってみせるからぁ!」


 悔しいやらなんやらで、涙が自然と両目から出てしまっていた。
 よくよく聞くと、少女は有名大手書店の社長の娘だった。生粋のお嬢様だ。日本人と外国人のハーフとのこと。
 サインがほしいと言うので、下手ながらも書いてやった。少女はうれしそうに色紙を胸に抱え、飛び跳ねて喜んでいた。どんな作品にも、ファンはつく。
 彼女の本屋にいつか自分の本を置くと、指切りげんまんさせられた。


 

 

f:id:inaba20151011:20170729135844j:plain